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静岡フォーラム2026
静岡フォーラム2026開催
令和8年3月14日(土)静岡県産業経済会館3階大会議室で「作業所の未来を地方から切り開く 静岡フォーラム2026~「今」を担う私たちは、「今」何を想い、何を実現しようとするのか~」と題して静岡フォーラム2026を開催いたしました。
制度改正や日々の業務に追われる事等に振り回されて自分たちの想いや支援の輪郭が曖昧になってしまいやすい私たちが「今まで」と「今」、そして「これから」を見つめなおす為に76名という多くの参加者が集い原点を再確認できる感慨深い研修でした。
午前の部
会長挨拶

会場の様子

講師 又村氏

講演「就労系障害福祉サービスの現状とこれから」

1. 「就労選択支援」の創設とアセスメントの独立
令和7年10月に創設される「就労選択支援」は、従来は就労移行支援の一部であったアセスメント機能を独立させたもので、本人の希望や適性に応じた最適な働き方の選択を支援することを目的としています。
具体的なプロセスでは、就労選択支援員が本人と協同して状況を把握し、多機関連携によるケース会議を経てアセスメントシートを作成します。これにより、本人が納得感を持って自らの進路を選べる仕組みが整えられました。特に注目すべきは、高等部1年生からの利用が可能となった点です。
2. 歴史的成果と「細分化」がもたらした副作用
かつての授産施設を機能別に徹底して細分化したことで、福祉サービスから一般企業への就職者数は、2003年の約1,300人から2024年には約29,000人へと飛躍的に増加しています。
しかし、この機能分化は「就職させる」という専門性を向上させた一方で、深刻な副作用も生じさせています。現在、就労系サービスは7種類にまで細分化されていますが、その結果、各事業所が「自分の庭先(担当範囲)」のみをカバーすれば良いという意識に陥ってしまいました。その結果、本来就労の土台となるべき「生活支援」との連携が、以前と比べて希薄になっているという課題に直面しています。
3. 「農園ビジネス」の台頭と雇用の質の危機
さらに近年、法定雇用率の達成のみを目的とした「農園ビジネス(障害者雇用ビジネス)」が急激に増加しており、これが雇用の質の危機を招いています。
国は雇用の「質」に関するガイドラインの策定を進めていますが、現場では最低賃金が得られることで本人や家族が一定の満足を感じているケースもあり、福祉的視点と市場論理が複雑に絡み合っています。
4. 効率化の波に抗い、不変の価値に立ち返る
追い打ちをかけるように、財務省は就労継続支援サービスに対して、生活介護と同様の「時間単価」の導入を求めるなど、効率性を重視する圧力を強めています。このように制度や評価軸が激しく変化する中で、私たちは目先の報酬体系や数値目標に翻弄されてはなりません。
今こそ、「本人の意思を基本とした暮らしぶりの実現」という、福祉の根源的な価値に立ち返る必要があります。
午後の部
鼎談「人が働く場所・生きる場所をつくる」~金刺幸春氏のまなざしの先にあったもの~
左から、作業所連合会・わ顧問永井昭氏、作業所連合会・わ顧問高木誠一氏

静岡福祉大学学長 増田樹郎氏

鼎談の様子

故金刺幸春氏のインタビュー映像

本鼎談は、静岡の障害者福祉を牽引し、昨年逝去した金指雪春氏の足跡を辿りつつ、現在の制度化された福祉の中で失われつつある「作業所の精神性」を再確認する場となった。議論は、精神障害者が社会から排除されていた昭和50年代の回想から始まった。当時、彼らは病院や保健所以外での存在を許されず、地域に居場所を求めて河原や湖畔で活動を始めるほかなかったが、永井氏は、その「脆弱」な無認可作業所にこそ、地域コミュニティ形成の「王様」としての力が宿っていたと指摘した。障害のある仲間がそこにいることで人々が集まり、応援が生まれるという、本来の地域福祉の姿がそこにはあった。
金刺氏はこうした歩みを「草茫(そうもう)の志」、すなわち道なき道に道を拓く気概として表現し、生涯を通じて「人間的に働くことができる仕事の創出」と「一人の人間として生きることの大切さ」を訴え続けた。高木氏は、作業所の核心とは単に工賃を稼ぐ場である以上に、あるがままの存在が肯定され、安全が守られる「居場所」としての精神性にあると説いた。しかし、自立支援法以降、市場原理や契約制度が導入されたことで、障害者が商品や「支援区分」という数値として扱われ、人格的な交わりが薄れている現状への強い危惧が示された。
金刺氏が率いた静岡の作業所連合会は、制度の荒波の中で「自分たちの足元から制度を問い直す」姿勢を貫き、法人化という選択をしながらも、黎明期からの「作業所文化」をいかに継承するかに心を砕いてきた。その理念は、地域の文化に支えられた独自の「面差し(おもざし)」を大切にすることや、人間として大切にされる場所としての「わのミッション」に集約されている。現在の福祉現場では、財務省による効率化の圧力や営利法人の急増により、生産性ばかりが評価される傾向にあるが、それだけでは福祉の課題は解決しない。一般就労への移行のみを至上命題とするのではなく、地域でのつながりや自己肯定感といった、既存の評価軸では測れない価値を言語化し、社会へ発信し続ける必要がある。
金指氏が理事長を務めた覆育会という法人名の由来でもある「覆育(万物が大自然に育てられているという思想)」という言葉には、障害の有無にかかわらず個人の尊厳を尊ぶ哲学が込められている。本鼎談は、歴史を単なる過去の記録としてではなく、私たちが歩むべき道を照らす確信へと変えるための、極めて重要な対話となった
シンポジウム「住み慣れた地域での生活を支えるために~「今」を担う私たちは、「今」何を想い、何を実現しようとするのか~」
左からコーディネーター海野氏、シンポジスト山田氏、安間氏橋爪氏

左からオブザーバー関原氏、小出氏、上原氏

シンポジウムの様子

シンポジウム「住み慣れた地域での生活を支えるために」では、営利法人の参入が急増する現代において、伝統的な「作業所」の精神をいかに継承し、良質な支援を実践するかという核心的な問いが投げかけられました。議論の冒頭、静岡において「作業所」という言葉が、単なる施設名を超えた「志」や「マインド」を象徴するキーワードであることが再確認されました。東京の橋爪氏が、都市部では「事業所」という呼称が一般的であり、全体を語る機会が減っていると指摘したのに対し、山田氏は精神障害者が病院から地域へ戻るための「覚悟」を込めてこの言葉を使っていると述べ、作業所が地域生活を死守する砦であることを強調しました。
議論を深めたのは、安間氏による凄絶な実体験の報告です。司法と福祉の狭間にいる、放火事件を起こした利用者を受け入れた際の葛藤と、その利用者が最終的に自ら命を絶ってしまった際の衝撃が語られました。安間氏が最も強い違和感を表明したのは、本人の死という悲劇を前にして、行政側から「事故報告書の早期提出」が真っ先に求められた点です。効率や管理を優先する市場原理的な風潮の中で、「一人の人生に最後まで向き合う覚悟があるか」という問いは、参加者全員に重く響きました。良質な事業所とは、工賃の多寡のみならず、こうした困難な人生に伴走し続ける姿勢にこそ宿るものであることが共有されました。
これに対し、オブザーバーの関原氏からは、不適切な会計処理や「利用者ロンダリング」を防ぐための国の新ガイドラインや「生産活動シート」の導入背景が解説されました。現在の評価軸が工賃の実績に偏りすぎている現状に対し、今後は「支援の質」をいかに言語化・定量化し、可視化していくかが喫緊の課題として浮上しました。関原氏は、利用者満足度や支援者の働きがいといった多角的な指標の可能性を示唆し、他方で「選ばれる事業所」になるために、自分たちの強みを地域資源の中で明確に打ち出していく必要性を説きました。
また、就労選択支援の創設についても議論が及び、育成会の小出氏は「市場原理の中に障害者が不在である」と警鐘を鳴らし、制度が環境を広げるための道具として機能すべきであると訴えました。最後には、管理者世代が持つ熱い思いをいかに次の世代へ継承し、現場との温度差を埋めていくかという未来への責任が語られました。多様化する社会の中で、自分たちが理想とする支援のあり方を地域で表現し続けることが、良質な事業所としての存在証明になるとの認識が、本シンポジウムの力強い結びとなりました。
作業所連合会・わ理事長 中野氏による総括
支援費制度から総合支援法改正に至る変遷の中で、支援の本質は常に「本人の意思を基本とした暮らし」の実現にある。制度のコードに人を当てはめるのではなく、利用者の「いきざし(生き様)」に徹底して伴走する。これが受け継ぐべき作業所文化の核心である。次世代の担い手は、報酬体系や効率に埋没することなく、地域実践から制度の矛盾を鋭く検証し続ける強さを持たねばならない。本フォーラムは、良質な支援を追求する覚悟を共有し、現場の事実を武器に「地方から制度を問い直す」姿勢を堅持することを宣言し、本報告を締めくくる。
