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令和7年度作業所学会
令和7年度作業所学会開催
令和7年12月13日(土)静岡県男女共同参画センター「あざれあ」にて、第7回作業所学会が開催されました。
午前は、記念講演を静岡県立大学名誉教授 石川准先生に「制度の内側から制度を問い直す」と題してお話いただき、午後は、3つの分科会と全体ディスカッションで「改めて、作業所の意味を問う」と題して全体で話し合いました。
記念講演

記念講演
午前の記念講演は「制度の内側から制度を問い直す」と題し、作業所の在り方について障害者権利条約の枠組みや日本の現状を踏まえ論じられた。
石川先生は、権利条約が求める「分離から包摂へ」の流れを説明し、日本の就労継続支援B型が抱える内包的矛盾を指摘した。B型事業所は、本来「雇用」であるべき就労支援でありながら労働法の適用外にあり、低賃金の温床となりかねない側面を持つ。権利委員会からは、これら分離的な保護就労から開かれた労働市場への移行を促す勧告が出されているが、一方、B型事業所等の持つ「居場所」や「安心できる日常」という、地域に自発的に発生した作業所の持つ役割という側面も評価の対象としてB型を「就労」の枠組みから外し、生産活動を伴う「日中活動(居場所)」として再定義して、作業所が本来持つ「安心感」や「人間関係」という価値を正面から発信できる事業所としての展望について提案がなされた。また、賃金の権利性や一般就労への受け皿確保など、本人の希望を閉ざさないための新たな仕組みづくりも不可欠であると締めくくられた。
質疑応答では、制度設計の主体がマジョリティ(健常者)であることへの危惧や、現場の葛藤が共有された。
質問者からは、健常者が捏造した「障害者像」に制度を当てはめる恐ろしさが語られ、連合会として国にどう問いかけるべきか知恵を求められた。石川先生は、自身の差別体験を交えつつ、既存の枠組みを相対化する視点の重要性を語り、制度の縛りの中にありながらも、当事者のリアルな経験に基づき、社会の側にある壁を問い直し続ける姿勢が確認された。
分科会・全体ディスカッション
意思決定支援部会
意思決定支援部会では「私が望む生活とは」をテーマに、当事者の視点から活発な議論が行われた 。特に「推し活(趣味)」が重要なキーワードとして浮上し、作業所での数時間だけでなく、人生全体を豊かにするための自己実現や余暇の重要性が強調された 。
利用者からは、趣味にお金を使いたいという切実な願いから「工賃向上」を求める声が多く上がった 。一方で、日々の業務の忙しさから、本人の望む生活について深く対話する時間が不足している現状も課題として挙げられた 。
結論として、障害の有無にかかわらず「聞いてくれる場所や仲間がいること」が意思決定の基盤であり、事業所の垣根を越えた連携を通じて、本人の意思を社会資源や政策提言に繋げていく必要性が示された 。


就労支援部会
就労支援部会では、2025年10月から施行された「就労選択支援事業」を背景に、改めて「働くことの意味」と「意思決定支援」のあり方を検討した 。 相談支援の現場からの事例報告では、離職の選択、作業所からアルバイトへの挑戦、引きこもりからの就労支援という3つのケースが紹介された 。これらを通じ、働く価値は金銭的報酬だけでなく、社会的な繋がりや役割、やりがいを見出すプロセスにあることが再確認された 。 また、意思決定とは個人の内側にある正解を探し出す作業ではなく、他者との相互関係の中で「ふわふわと浮遊しながら形成・選択されるもの」という概念が提示された 。支援者は、多くの選択肢を提示し、共に迷いながら本人の「働きたい」という意志を形成していく姿勢が求められている 。

地域生活支援部会
地域生活支援部会では、地域で暮らしにくいとされる重度障害者等の支援を軸に、既存の「福祉文化」の再考が行われた 。
報告では、安全管理や健康神話を優先するあまり、本人の嗜好(酒・タバコ等)や自由を制限してしまう管理的な支援文化への疑義が呈された 。具体的な実践例として、地域住民が自由に集える空間を併設した新しいグループホームの設計や、24時間体制のヘルパー支援による重度障害者の地域居住事例が紹介された 。
また、罪を犯した障害者(触法障害者)への支援を通じ、支援者が「人を変えようとする傲慢さ」を捨て、失敗を許容しながら「受容的な姿勢で共にいること」の重要性が説かれた 。AI(チャットボット)によるまとめも活用され、環境要因が行動に与える影響や、ハード面からのアプローチの有効性が示唆された 。

全体ディスカッション
三つの分科会報告を受け、全体討論では各分野の知見を統合し、作業所の意義と今後の課題が共有された 。
各分科会への感想では、本人部会における発言が「かつてないほど生き生きとしていた」という質的な深まりを評価する声や、地方において選択肢(福祉資源)が極めて少ない中で、支援者が陥る葛藤(資源不足による妥協)の現実が吐露された 。
フロアとの質疑応答では、グループホーム入居中のヘルパー利用(移動支援・行動援護等)に関する実務的な運用状況や、制度上の制約(単価の調整等)について具体的な情報交換が行われた 。ここでは、制度の理解度が事業所によって差があることや、強度行動障害等がある場合の受け入れの難しさが改めて浮き彫りとなった 。
総括として、各部会に共通していたのは「支援者が一方的に導くのではなく、本人の意思や迷いに寄り添い、共に生活を形作る」という姿勢である 。個別の法人の枠に閉じこもるのではなく、連合会という横の繋がりを活かし、多様な実践例や価値観を共有し続けることが、制度の枠組みを超えた「作業所の意味」を問い直すことに繋がると結論付けられた 。
